学園モノであり青春モノとなっており、朝井リョウさんらしさを詰め込んだような作品となっています。短編集となっており、各話で高校を卒業する学生たちの脆い心情をうかがうことが出来ます。
Contents
『もう一度生まれる』の作品情報
題名 | 『もう一度生まれる』 |
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著者 | 朝井リョウ |
発行所 | 株式会社幻冬舎 |
発行日 | 2014年4月10日 |
ページ数 | 286頁 |
朝井リョウ・作者情報
1989(平成元)年、岐阜県生れ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、 2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『もういちど生まれる』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『死にがいを求めて生きているの』などがある。
https://www.shinchosha.co.jp/writer/4436/
あらすじ(ネタバレなし)
様々な思いを抱える大学生の姿を描いた作品です。それぞれの思いが交錯し、一筋縄ではいかない人間関係がリアルに描かれています。それぞれの話で主人公が異なり、話も完結する短編集です。
登場人物紹介
- 汐梨(しおり):群馬出身で上京し、大学に通っている。美人で、尾崎という彼氏がいる。
- ひーちゃん:汐梨と同じ大学に通う。とても美人で、意見をはっきりと言う。
- 風人(かざと):汐梨達と同じ大学に通う。柔らかい雰囲気で、ひーちゃんと汐梨と3人で仲良くしている。
- 尾崎(おざき):汐梨の彼氏。「たいしたことじゃない」が口癖。
- 翔多(しょうた):尾崎と同じクラスの学生。明るい性格。椿のことが好き。
- 椿(つばき):翔多と同じクラス。とても可愛く、読者モデルをしている。
- 礼生(れお):翔多と同じ大学で、翔多の友達。映画が好きで、自分でも映画を撮影している。
- 新(あらた):美大の学生。人物画を描くのが上手。
- 結実子(ゆみこ):椿の友達で、椿と同じクラス。新の絵のモデルをしている。
- 梢(こずえ):椿の双子の妹。なんでも簡単にこなす椿に劣等感を感じている。
書き出し紹介
えっ、いまあたしにキスしたのどっち?真昼の月のように、ぼんやりと輪郭が見えなくなっていく意識。甘い眠りの誘惑に落ちていきそうになりながら、それでもあたしは完全に寝てはいなかった。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。
ひーちゃんは線香花火
群馬から上京し、大学に通い始めた私は、自他共に認める美人で華があった。大学の子たちは、みんな自分の意思がなさそうで、あまり周りと過ごそうとしなかったが、その中でも、ひーちゃんと風人という大切な2人の友達ができた。
ひーちゃんと風人の他に、私には尾崎という彼氏がいた。尾崎はなんに対しても「たいしたことじゃない」というのが口癖の余裕がある人だった。そんな尾崎が私は大好きで、自慢だったが、尾崎が何を言っても嫉妬してくれないのが少し不満でもあった。
ある時、風人から好意を感じ、動揺する私は、尾崎にそのことを報告するが、尾崎はいつも通り「たいしたことじゃない」の一言だった。
そんな折、風人から「ひーちゃんが交通事故にあった」との電話がある。話を聞くと、ひーちゃんは何か私に話したいことがあり、それを伝えると3人の関係が壊れてしまうかもしれないと怯えていたらしい。幸いひーちゃんは足を怪我しただけで、命に別状はなかったが、それを聞いた私は焦りと不安で泣いてしまった。
燃えるスカートのあの子
大学生の翔多は、大学で一目惚れした椿に夢中だった。翔多は、大学生らしい見た目をして、大学生らしい行動をして、大学生の手本のような平凡な生活をしていた。そんな翔多には、変わった友達がいた。友達は礼生といい、映画が大好きで、自ら映画を撮影していた。そんな礼生に翔多は憧れを感じながらも、自分は絶対に礼生にはなれないと感じていた。
ある日、翔多や椿のクラスはクラス合宿に出かける。そこで見かけた椿は髪型が一気に変わっていて、以前に椿が「好きな人ができたらその人の好みに合わせて髪型をすぐ変える」と言っていたことを思い出す。椿に新しい好きな人ができて、落ち込む翔多だったが、なんとか平静を装ってクラス合宿を終えた。
学校に行くと、礼生が撮影する映画の主演を椿が演じることを知った。そして、そこで礼生のことを愛しそうに見つめる椿を見つけてしまったのだった。
僕は魔法が使えない
美大で絵を描いている新には、ナツ先輩という仲良しの先輩がいた。ナツ先輩は、いつも簡単にセンスのある絵を描き、まるで天才のようであった。そんなナツ先輩を新は尊敬し、憧れていた。
新は父のことが大好きだった。そんな父が、去年の夏、交通事故で亡くなった。新がまだ父を失った悲しみから立ち直れない頃、母は鷹野さんという新しい相手を家に連れてきた。初めて鷹野さんを家に連れてきた時、鷹野さんは家でカレーを作ってくれた。そんな鷹野さんに新は感情が爆発し、鷹野さんに向かって母との関係を責めるような言葉を浴びせてしまった。
それ以来母と距離を置くようになった。父が亡くなったというのに別の相手を見つける母が許せなかった。
そんな時、ナツ先輩に人物画を描くことを勧められる。下北沢を歩いていると、どうしてもこの人の絵を描きたいと思う女性に出会い、絵のモデルになってもらうことになった。その女性は結実子といい、明るく話しやすい女性で、絵を描くために会ううちに、新は父を失ったことや、母との関係まで打ち明けていた。
ある日、新の家で結実子を呼び、絵を描いていると母が帰ってきた。その時、母と結実子を見て、2人がどこか似ていることに気づく。新は無意識のうちに母に似ている人を選び、描きたいと思っていたのだ。
それを見て、新は母と向き合い直すことを決めた。そして、鷹野さんとも話してみようと思うことができたのだった。
もういちど生まれる
梢と双子の椿、風人の3人は幼なじみで、幼い頃はいつも3人で過ごしていた。しかし、そんな関係は中学に入ると簡単に崩れていった。梢とそっくりの見た目だったはずの椿は、メイクをし、派手な友達とつるむようになった。そして、変わらない梢や風人の元を去っていったのだった。
椿と梢は似ていたが、椿は梢よりも生きるのが上手だった。可愛い顔を生かし、読者モデルをし、友達もたくさん作り、大学にも簡単に受かった。一方で、椿より全体的に少し劣った顔立ちの梢は、たくさん努力をしていても、報われないことが多く、母からの愛も少なかった。そんな梢は椿のことが羨ましかった。
ある日、椿は学生映画の主演を務めることになったといい、髪を真っ黒に染めて帰ってきた。そして、映画の監督のことを好きになってしまったという。その監督から、椿の携帯に連絡がきているのを盗み見た梢は、監督に椿を装って連絡をとり、椿のフリをして撮影に行くことを決めた。
当日、メイクをし、椿そっくりの見た目で撮影現場に行った梢に、スタッフ達は全く気づかなかった。撮影は順調に進むかのように思われたが、監督だけは、梢が椿のフリをしていることに気づいた。それでも撮影を続けるという監督の言葉に後を押され、演技をした梢は、さっぱりとした気持ちで、まるでこの世に生まれ直したかのようだった。
まとめ・感想
大学生の筆者にとっては、とても共感できる内容で、各話の登場人物が実在するかのように感じました。物語自体は、各話で関係する短編集ですが、各話の登場人物が別の話では異なる環境で異なる視点から描かれており、それぞれの登場人物の関係性も注目される作品です。
それぞれの話に明確な結末は描かれておらず、解釈はそれぞれの読み手に託される終わり方となっています。しかし、どの物語も主人公らが、現在の自分を見つめ直し、新たな自分を築こうとする話になっており、『もう一度生まれる』というタイトルがぴったりの作品だと感じました。
朝井リョウさん独特の書き口と、大学生の心情を描いた作品になっているので、朝井リョウさん初めての方にも是非読んでいただきたい作品です。
お付き合いありがとうございました。