『天国はまだ遠く』の作品情報
瀬尾 まいこ・作者情報
1974年 大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。大学卒業後、中学校の国語教師に。働きながら執筆活動スタートし、26歳の時に書いた2001年に「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し作家デビュー。2005年に『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞受賞。2008年に『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞受賞。2019年に『そして、バトンは渡された』が本屋大賞。身近な悩みに寄り添ってくれるような親やすいストーリーと優しい文体で人気。
あらすじ(ネタバレなし)
仕事も人間関係もうまくいかない千鶴(23歳)は、会社を辞めて死ぬつもりで一人あてもなく旅立った。
辿り着いた山奥の民宿で、用意してきた睡眠薬を飲むが死に切れなかった千鶴だが、民宿の主人と山奥の暮らしに触れ徐々に癒されていく。
優しく大らかな村人や大自然に囲まれ過ごした日々で千鶴が気づいたこととは?
書き出し紹介
ずっと前から決めていた。今度だめだと思ったら、もうやめようって。いつも優柔不断で結局失敗してしまうけど、今度の決意は固い。一度切ろうと思ったものを引き延ばすのには力がいる。もう終わりにしようかと思ったら、長引かせちゃいけない。本当に終わりにするのだ。
旅行鞄には、いるものだけを詰めた。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。
主人公の千鶴は23歳、営業職。
仕事では契約件数が達成できずにヒステリックに怒鳴られ、書類を書き間違えては散々嫌味を言われ、毎日毎日プレッシャーに押しつぶされそうな日々に耐えられなくなり、自殺を決意する。
貯金を全額おろし、あてもなく乗り込んだ特急の終着駅。タクシーをひろい、できるだけ遠い北の町へと向かう。
たどり着いたのは、木屋谷という山奥の田舎の集落にある「民宿たむら」。
死ぬことが目的でやってきた、、もうこれ以上あの日々を続けることには耐えられない、、これを飲めばあの日々から解放される、、持ってきた睡眠薬を一度に全部飲み込み最後の眠りにつく。
が、しかし、彼女を待っていたのは太陽が輝く爽やかな朝だった。
自殺に失敗した千鶴は、そのまましばらく民宿で生活することに。
宿主の田村さん。いかにもむさ苦しいという言葉が似合う外見をした、大らかというより大雑把な人。そんな大雑把な田村さんの人柄と垣間見える優しさに、千鶴の心は徐々にほどけていく。
田村さんに誘われて、釣りをしに海へ出たり、鶏小屋を掃除したり、地元の飲み会に参加したり。
繊細で気が弱いと自負していた千鶴だが、田村さんに言わせると「えらい率直やし、適当にわがままやし、ほんま気楽な人」。そんな千鶴の素顔が民宿での生活を通してだんだんと見えてくる。
死ぬつもりだったのに死にたい気持ちはすっかり薄れて、大自然の中で心を癒されていくが、そんな自然に囲まれた集落で、何にもとらわれずに生きるためだけのシンプルな毎日を送る生活を羨ましいと感じると同時に、そんな日々に違和感を持ちはじめる千鶴。
私はたくさんのすてきなものに囲まれている。ここにいたい。でも、ここには私の居場所がない。ここで暮らすのは、たぶん違う。ここには私の日常はない。ここにいてはだめなのだ。私は私の日常をちゃんと作っていかなくちゃいけない。まだ、何かをしなくちゃいけない。もう休むのはおしまいだ。
千鶴は現実から目を逸らさず、この場所から旅立つ決意を固める。
まとめ・感想
自殺がテーマのストーリーなのに、読んでいても面白い。なんだかすごく元気がもらえる小説です。
瀬尾まいこさんならではの、明るく優しい文体がそうさせるのでしょうか。とてもシリアスなテーマなのに読後感はとても爽快です。
自分には居場所が無いと感じている人、そして自殺を考えているくらい元気がない人はもちろん、元気が有り余っている人が読んでも、何か生きるヒント、気づきをもらえると思います。
なお、同タイトルで映画化され話題になりましたので合わせて観るのもおすすめです。