朝井リョウさん初のエッセイです。普段の小説からは、なかなか伺うことのできない朝井リョウさんの素顔を知ることが出来ます。大学時代の話を中心に、多数のエッセイが収録されており、笑い必至の作品です。
『時をかけるゆとり』の作品情報
題名 | 『時をかけるゆとり』 |
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著者 | 朝井リョウ |
発行所 | 株式会社文藝春秋 |
発行日 | 2014年12月10日 |
ページ数 | 271頁 |
朝井リョウ・作者情報
1989(平成元)年、岐阜県生れ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、 2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『もういちど生まれる』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『死にがいを求めて生きているの』などがある。
https://www.shinchosha.co.jp/writer/4436/
あらすじ(ネタバレなし)
早稲田大学在学中に『桐島部活やめるってよ』でデビューした朝井リョウさんの痛快エッセイです。大学時代にしたバカなことから社会人になってからしたバカなことまでたくさんの笑ってしまう話が詰まっています。普段はクールで少しシリアスな小説を手がける朝井リョウさんの人間性を覗くことのできる1冊。
書き出し紹介
私はお腹が弱い。文字にするとなんとも情けない一行目だが、この事実は私を語る上で大変重要な項目だ。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。
ダイエットドキュメンタリーを撮る
大学時代、作者は22組というクラスに所属していた。22組では、文化祭に際して、クラスで何か出し物をしようということになった。足湯や壁画等たくさんの案が出されたが、大学からの許可が出ないということでどれもボツになった。そんな中決まった最終案が「ダイエットドキュメンタリー」だった。その企画の対象になったのは、Hという女の子だった。
滞りなく撮影は行われ、ドキュメンタリービデオは完成したが、1つだけ問題があった。ドキュメンタリーが密着したのはたった1日なのだ。当然のようにHは痩せず、ただHが3食を食べるだけの動画になってしまったのだった。これを文化祭当日に流すことになったのだが、その映像を流す係はRという男が担当した。
4年後。クラス会の最中にふとあのドキュメンタリーを思い出し、文化祭での反応がどうだったのか聞くと、Rは、実はお客さんが2人来たのだと言った。それで反応は?と聞く僕らに対し、Rは「申し訳なくてドキュメンタリーを流すことはできなかった」といった。僕たちは心底安堵したのだった。
地獄の100キロハイク
大学3年生の頃、作者は「100キロハイク」というイベントに参加した。「100キロハイク」とは、2日間かけて埼玉の本庄市から早稲田大学まで歩きとおすという地獄のようなイベントである。100キロハイクの前日、作者は大量の荷物を買い込みに行った。というのも、持ち物を見ると、「マメをつぶすための安全ピン」等恐ろしい持ち物がたくさん書かれていたのだった。
当日朝、作者はバスローブにワイングラスを持って家をでた。仮装をするのもこの100キロハイクの醍醐味なのだ。sかし、わくわくした作者の気持ちはすぐに打ちのめされることとなる。100キロというのは想像以上に過酷で、10時間も経ったころには足の感覚がなかった。やっと1日目の休憩所に着いた時には夜中の2時半を回っていた。にもかかわらず次の日は6時半には休憩所を出発しなければならない。
次の日朝起きてみると右足首に違和感を感じた。曲がらないのだ。それに加えて、2日目は雨が降っていた。仮装で着てきたバスローブは効果を発揮し、驚異の吸水力を見せていた。それでも足をテーピングで固め、作者は100キロを歩ききった。大学に着いて、閉会式を迎えたとき、ついに作者は泣いた。
まとめ・感想
この作品は、朝井リョウさん初のエッセイ集である『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に加え、新作エッセイを3本追加したものとなっています。元の『学生時代にやらなくてもいい20のこと』というタイトル通り、作者が作家としてデビューするために努力したことや、普段心掛けていること等は全く描かれず、一人の朝井リョウという人物の紹介となっています。
普通の人ではできないような体験もたくさんありますが、誰もが経験するであろうことや身近な面白いことまでもが、ふと笑いが漏れてしまうようなエッセイになっており、朝井リョウさんのユーモラスな性格と文章力を感じさせられます。主に大学時代の描写が多く、普段の小説で驚かされるリアルな学生の描写は、このような作者の学生生活に基づいているのだと思いました。
朝井リョウさんの作品をよく読まれる方はもちろん、作品を読んだことがないという方にもおすすめしたい1冊です。朝井リョウさんの作品を読んでみたくなること間違いなしです。今回は、2編のエッセイを抜粋し、ご紹介しましたが、他にもふと気分の明るくなる面白いエッセイが詰まっているので、是非1度読んでみてください。
お付き合いありがとうございました。