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『少女は卒業しない』の作品情報
題名 | 『少女は卒業しない』 |
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著者 | 朝井リョウ |
発行所 | 株式会社集英社 |
発行日 | 2012年3月10日 |
ページ数 | 257頁 |
朝井リョウ・作者情報
1989(平成元)年、岐阜県生れ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、 2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『もういちど生まれる』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『死にがいを求めて生きているの』などがある。
https://www.shinchosha.co.jp/writer/4436/
あらすじ(ネタバレなし)
卒業式の次の日に校舎が取り壊されることが決まっているある高校の少女達の姿を描いた作品です。
ずっと心に秘めてきた恋愛や、友人関係等が、それぞれの視点で描かれています。各話ごとに物語の主人公が変わり、各話ごとに完結する短編集です。
登場人物紹介
- 作田(さくた):高校3年生。図書室の先生に恋をしている。
- 孝子(たかこ):高校3年生。真面目な性格で常に優等生だった。
- 尚輝(なおき):孝子の幼馴染。孝子と同じ高校に通いながら、事務所に所属しダンスをしている。
- 田所先輩(たどころせんぱい):高校3年生。生徒会長で、成績優秀。去年の卒業生で答辞を読んだ。
- 亜弓(あゆみ):高校2年生でバスケ部の部員。田所先輩に恋をし、生徒会に入った。
- 後藤(ごとう):高校3年生。女子バスケ部の部長。
- 寺田(てらだ):高校3年生。男子バスケ部の部員で、後藤の彼氏。
- 森崎(もりさき):学生ヴィジュアル系バンド『ヘブンズドア』のメンバー。
- 高原あすか(たかはらあすか):高校3年生。帰国子女で、英語が話せる。
- 楠木正道(くすのきまさみち):高校3年生。美術部の部員で、あすかと仲が良い。
書き出し紹介
伸ばした小指のつめはきっと、春のさきっぽにもうすぐ届く。つめたいガラス窓の向こうでは風が強く吹いていて、葉が揺れるのを見ているだけでからだが寒くなる。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。
エンドロールが始まる
私が今日まで通っていた学校は明日取り壊される。そして今日が卒業式だ。
卒業式の日、私はいつにも増して綺麗に髪を巻き、メイクをしていた。それは卒業式があるからではない。私にはもう1つの理由があったのだった。
私は、図書室の先生に恋をしていた。一年前、偶然図書室に足を運び、先生と知り合ってから、私は先生に夢中だった。でも、先生に奥さんがいることは知っていて、恋は叶うはずもなかった。興味のない本を借りてまで、先生と話したかった。それも今日で終わり。
先生を少し早く図書室に呼び出して、先生に「好きでした。」と伝えた。過去形にして無理やりセリフを終わらせて、やっと私の恋は終わりを迎えた。
屋上は青
今日は卒業式だ。優等生の孝子には尚輝という幼馴染がいた。尚輝とは高校までずっと一緒だった。真面目な孝子と違い、尚輝はいつも余裕があり、自然と華があった。尚輝はずっとダンスを習っており、中学からは事務所に所属して活動していた。
そんな尚輝に孝子はずっと憧れていた。自分にはないものを尚輝は全て持っている。尚輝には不安なんてないと思っていた。
しかし、そんな尚輝と卒業式前高校の屋上で話をしていると、尚輝にも彼なりの不安がたくさんあることを知ったのだった。それを見て孝子は、不安を背負いながら笑う彼を支えるのが自分の役割だと悟ったのだった。
在校生代表
生徒会に属する私は卒業式の在校生代表挨拶を読んでいる。この答辞で私は1つ上の田所先輩への思い出を語った。
田所先輩と私の出会いは、去年の卒業式後の卒業ライブだった。卒業ライブの照明をやっていた田所先輩は涙を流していて、その姿に一目惚れした私は、先輩の情報を仕入れ、生徒会の一員だということを知った。それを知ってから私も生徒会に立候補し、先輩との仲を深めていった。
先輩の私の呼び名が、「岡田」から「亜弓」に変化していくのが嬉しかったのを覚えている。しかし、そんな私は卒業ライブでの先輩の涙の訳を知る。先輩は先輩の1つ上の女の先輩に片想いしていたのだった。
そこで私は、先輩の卒業に際し、自分も卒業ライブで照明をやることを決めた。そして、先輩を呼び出して、もう一度ゆっくり話をするのだ。
寺田の足の甲はキャベツ
バスケ部の部長を務める私には彼氏がいた。彼氏もバスケ部で、寺田といった。寺田はいつも明るく、キャベツみたいな足の甲をしていた。
寺田のことは大好きで、仲も良かった。でも、そんな私には卒業式の今日、どうしても伝えたいことがあった。
卒業式後、バスケ部のみんなで集まる前、私と寺田は河川敷に足を運んだ。そして、ずっと前に約束した花火を一緒にやった。他愛もない話をして、私はとても幸せな気持ちだった。
しかし、私と寺田は将来の夢が違う。寺田は地元で教師になりたくて、私は絶対に東京に出たかった。高校生の私たちに遠く離れてまで愛を育むことはまだ考えられなかった。
ついに私は寺田に「別れよう」と告げた。
四拍子をもう一度
卒業ライブの直前、ライブでトリを務める予定のビジュアル系バンド『ヘブンズドア』の衣装やメイク道具が全て盗まれた。
軽音部のメンバー総出で、学校中を探し回ったが、どうしても見つからない。メンバー達も、焦りから部員を疑い始め、控室は険悪なムードに包まれてきた。
そんな部員達を尻目に、部員の氷川さんが間違えて控室の電気を消してしまった際に、『ヘブンズドア』のCD-Rまで無くなってしまった。
もうアカペラでメイクなしで歌うしかないという状況の中、1人だけ余裕でキメ顔の練習をしているメンバーがいた。彼は、『ヘブンズドア』のボーカルを務める森崎だった。
私は焦った。私は実は森崎のことが好きで、大好きな森崎のすてきな歌声をみんなに聞かせたくなかったのだった。
しかし、時は着実に進み、アカペラ・メイク衣装なしの状態で『ヘブンズドア』の出番が回ってきた。
そこで、ついに私は気づいたのだった。今回の犯人は氷川さんで、彼女も森崎のことが好きなのだと。こっそり氷川さんに話を聞くと、私の勘は当たっていた。でも、氷川さんは大好きな森崎の歌声をみんなに聞いてほしいという思いから、衣装を隠したのだと言った。
悔しい思いと共に、氷川さんの素直な気持ちに私は心を打たれ、森崎の声を聞こうと決めたのだった。
二人の背景
高原あすかは高校一年生の途中で、カナダから転校してきた。髪の毛を茶色に染め、ピアスをつけたあすかはクラスで一際浮いていた。
そんなあすかに最初に話しかけてくれたのはクラスの中心的存在だった里香だった。里香は、見た目も華やかで、英語教師の母親を持ちアメリカに留学経験があった。フレンドリーにあすかに接していた里香だったが、今まで里香がずっと一番だった英語のテストであすかが満点を取って一位になると、あすかの悪口を言いだすようになった。
クラスで居心地が悪くなったあすかは、新しく入った美術部の活動に打ち込むようになった。そして、同じ美術部員の正道くんと一緒にいる時間が増えていった。正道くんは知的障害があったけれど、とても素直で、あすかの味方でいてくれた。
そんな正道くんとの高校生活を過ごしたあすかは、大学からアメリカに行くことが決まった。そんな中、卒業式の日、正道くんがあすかの肖像画を描いてくれた。
それは正道くんなりのメッセージであり、お別れの合図だったのだ。
まとめ・感想
朝井リョウさんらしい高校生の姿を描いた学園モノの作品です。大人になりかけの18歳の、複雑な心境がとてもリアルに表現されていると感じました。
自分達の居場所であった高校が卒業と同時になくなるという状況で、少女達が高校生活最後のもがきを見せます。どの話も一般的なハッピーエンドとは異なりますが、これから新しい生活の始まりを予感させる終わり方となっています。
各話ずつ登場人物は異なり、話も完結しますが、同じ学校の話ということもあり、違う話に出てくる登場人物が、別の話でも描かれています。本人の視点か、他人の視点かによって、同じ人物でも見え方が違い、話を読み進めることで、それぞれの話がより深みを増すのもこの作品の特徴です。
お付き合いありがとうございました。