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『ままならないから私とあなた』のあらすじと感想|ネタバレあり

朝井リョウさん独特の切り口で、現代の進みゆく技術革新に、疑問を呈した作品となっています。作品中の出来事が、現実になる日も近いと感じさせられ、これからの自分たちのあり方について、考えさせられる1冊となっています。

『ままならないから私とあなた』の作品情報

ままならないから私とあなた
題名『ままならないから私とあなた』
著者朝井リョウ
発行所株式会社文藝春秋
発行日2019年4月20日
ページ数252頁

朝井リョウ・作者情報

朝井リョウ・作者情報

1989(平成元)年、岐阜県生れ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、 2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『もういちど生まれる』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『死にがいを求めて生きているの』などがある。
https://www.shinchosha.co.jp/writer/4436/

あらすじ(ネタバレなし)

小学校の頃からの大親友のカオルちゃんは少し変わっていたけれど、人一倍頭がよかった。勉強はそこそこでピアノが大好きな私と、効率を追い求める賢いカオルちゃんは性格が似ているわけではなかったけれど、大人になってもずっと仲良しだった。

賢いカオルちゃんは中学生の頃から、プログラミングソフトの開発に精を出しており、親友の私のために、ピアノのソフトの開発を目指していた。初めは素直に応援していた私だったが、段々とカオルちゃんの研究に違和感を抱き始めるのだった。

登場人物紹介

  • ゆきこ:物語の主人公。勉強はそれほど得意ではないが、ピアノが大好きで、音楽を仕事にしたいと思っている。
  • カオルちゃん:賢く、大人っぽい女の子。効率の悪いことが大嫌いな性格。

書き出し紹介

月曜日の日直は、これだからいやだ。週末、せっかくきれいにしてもらったサマーセーターの紺色に
チョークの粉の白がぱらぱらと降りかかってしまう。

ストーリー(ネタバレあり)

この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。

ゆきこには何でも話せる親友がいた。親友の名前は、カオルちゃんといい、大人っぽく、とても頭の良い女の子だった。カオルちゃんは無駄なことが大嫌いで、学校で勉強することも無駄だと思っていた。そして、通信教材としてタブレットを手に入れると、それを使ってずっと勉強していた。そんなカオルちゃんと違い、私は、勉強はそんなに得意ではなかったが、ピアノが大好きで、ピアノの練習をずっと続けていた。

中学に入っても2人は仲良しだった。通信教育に精を出し、段々と学校を休みがちになるカオルちゃんと吹奏楽部に入り、学校が忙しい私とでは都合が合わなくなり、小学校の頃のように一緒に帰る回数は減ったが、変わらずよく2人で遊んでいた。高校3年生になり、音楽科に進みたいことをカオルちゃんに告げると、カオルちゃんはまるで自分のことのように応援してくれた。しかし、ピアノがある場所でしか練習できないことを非効率だと思っているようだった。

高校受験を控える中、私は小学校からの同級生である渡邊くんに恋をしていた。その気持ちは渡邊君も同じで、私たちは付き合うことになった。

ある日カオルちゃんは学生発明家コンテストでグランプリを取った。グランプリを取った作品は「お家でピアニスト」というプログラミングソフトだった。このソフトは、演奏者の癖を読み取り、まるで演奏者本人が演奏しているかのような自動演奏が可能だという商品だった。その作品を、カオルちゃんはゆきこのために開発したと言った。このソフトを使えば著名な演奏家の癖等を読みとり、ゆきこも同じように演奏できるようになるというのだった。カオルちゃんの気持ちを受けながら、ゆきこは素直に喜ぶことができなかった。

大学を卒業すると、カオルちゃんは起業し、すぐに結婚した。カオルちゃんに結婚するような相手がいることも知らなかったゆきこはその報告に驚いた。詳細を聞いてみると、相手とはマッチングアプリで出会い、恋愛感情はないが、お互いの利害が一致したため、すぐに結婚したという。

その頃、私は音楽の活動がやっと波に乗り出しており、本命のコンペも進むことが出来ていた。その中でオリジナルの曲を作っていた。そして、満足のいくものができたので、カオルちゃんに最初に聞かせようと思い連絡をすると、カオルちゃんも新しい商品を開発したからゆきこに最初に見てほしいという。カオルちゃんの家に行くと、さっきまでゆきこが作っていたはずの曲がパソコンから流れていた。呆然とするゆきこを前に、カオルちゃんは嬉しそうに新しいソフトの説明をする。そのソフトは、演奏者の癖を読みとり、自分にしか作れない曲を作ってくれるというのだった。

まとめ・感想

途中まで、明るい物語展開を予想していた筆者は、想像もできない結末に驚かされました。なんでもプログラム化をし、効率化を図ろうとするカオルちゃんは、近年のAI化の象徴のように感じられ、今後の私たちの方向性について考えさせられる作品でした。効率化を試み、人間の作業をできる限り減らそうとするカオルちゃんは、筆者には少し怖く感じられました。

しかし、今後この話と同じようなことが現実で起こる可能性があると考えると、物語のなかの話と高をくくってしまうのは間違いだと感じました。ハッピーエンドとは言えず、衝撃の結末が待ち受けていますが、これからを生きる全ての人に読んでもらいたい作品だと思いました。

お付き合いありがとうございました。

ABOUT ME
いけだ
読書家。現役女子大生。物心ついた頃から、本を読んで育つ。 本の読みすぎから、小学生時点で漢字の読みだけは高校生レベルを誇った。 活字は基本的に何でも読むが、中でも小説に目がない。本選びは、タイトルと書き出しを見て、直感的に行う。 無計画に書店をうろつき、本を眺めるのが至福の時。最近、小説をまとめ買いできるようになって、大人を感じている。
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