『愛がなんだ』の作品情報
題名 | 『愛がなんだ』 |
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著者 | 角田光代(かくたみつよ) |
発行所 | 株式会社角川書店 |
発行日 | 2007年10月1日 |
ページ数 | 224頁 |
角田光代・作者情報
作家。『対岸の彼女』や、『八日目の蝉』、『紙の月』等、数多くの有名作品を手がけています。中でも、『紙の月』は、女優の宮沢りえさん主演で映画化され、話題を呼びました。また、作家としてだけでなく、翻訳家としても活躍されています。
あらすじ(ネタバレなし)
一途に、そして熱狂的にマモちゃんに恋をするテルコに、マモちゃん以外の男は見えないも同然だ。そんなマモちゃんからの呼び出しに、テルコは何があろうと答えていた。マモちゃんとテルコは一見恋人のようだったが、気まぐれにテルコを呼び出すマモちゃんは、テルコのことを恋愛対象だとは思っていないのだった。
登場人物紹介
- 岸井テルコ:マモちゃんに熱狂的な恋をしている。恋をすると周りが見えなくなるタイプ。
- 田中守:マモちゃんと呼ばれている。テルコとは友人主催のパーティーで出会った。
書き出し紹介
ずっと先に高層ビル群の明かりが見える。橙や黄や、白や赤のちいさな明かりが、点滅したりしなかったりしている。それらを映して、夜空は薄い紫色だ。私の頭のちょうどてっぺんに、まんまるより少し欠けた月がある。白い、ちいさな、いびつな月。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。
「あいのひかり公園」で、愛とはほど遠いメンツに囲まれ、愛について考えてみる
岸井テルコの頭の中は、友人主催のパーティーで出会った田中守ことマモちゃんのことでいっぱいだった。パーティーで出会うと、2人はすぐに仲良くなり、その後もマモちゃんから頻繁にご飯に誘われるようになったのだ。そんなマモちゃんに恋をし、夢中になったテルコだったが、出会いから5か月が経過した今も、気まぐれでご飯に誘われるだけで、肝心な愛の言葉は全く聞くことができないのだった。
テルコはマモちゃんから電話があると仕事中だろうが出たし、マモちゃんからご飯の誘いがあれば早上がりして向かった。さらには、マモちゃんから遅い時間にご飯に誘われた時のために、無理矢理残業もした。そんなテルコに、職場の目は段々と厳しくなっていった。
ストーカーが私のような女を指すのなら、世のなかは慈愛に満ちているんじゃないの
マモちゃんは3日か4日に一度、気まぐれにご飯を誘ってくる。そして、今日は前回のお誘いから4日目だ。マモちゃんからのお誘いは20〜21時に来るということを把握したテルコは、マモちゃんの仕事場近くで暇を潰した。しかし、21時を過ぎてもマモちゃんからの連絡はなく、家に帰りシャワーを浴びたところでマモちゃんからご飯のお誘いが入った。24時を過ぎる時間だったが、適当な言い訳をし、テルコはマモちゃんの元に駆けつけた。
風が吹けば桶屋が儲かる、恋愛運が上昇すれば仕事運は下降する
この頃、テルコのマモちゃん狂いは加速していた。マモちゃんは最近ほぼ毎日電話をくれ、2日に一度はマモちゃんの家に泊まりに行っていた。テルコは夢のような気持ちで、幸せの絶頂を味わっていた。
一方で、テルコの勤務態度は輪をかけてひどくなり、ついには会社をクビになってしまった。そんな私だったが、職探しは後回しで、マモちゃんと遊んでばかりいた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。ある日マモちゃんに起こされると、マモちゃんは不機嫌で、マモちゃんの家から出ていくように告げられる。
思い浮かべた百の不幸も、私に比べたら千倍のハッピーに匹敵するんじゃなかろうか
突然出ていくよう告げられてから、マモちゃんとは音信不通だった。思い当たる節もなく、テルコは沈んでいた。そんなマモちゃんからふと連絡が入ったのは3ヶ月後だった。
そして、いつもと変わらずご飯に誘われた。しかし、ご飯に行ってみると、塚腰すみれと名乗る女性も一緒だった。聞いてみると2人は合コンで知り合ったのだという。
久しぶりのマモちゃんに浮かれていたテルコだったが、マモちゃんのすみれさんへの気持ちを察し、心が壊れていくのを感じた。
噛ませ犬、当て馬……言い方は忘れちゃったけれど、つまりそんなようなものである
テルコは結局就職活動を諦め、健康ランドでアルバイトをすることに決まった。仕事は大変だったが、テルコはなんとか仕事を辞めず、続けられていた。
そんな時、ついにテルコはマモちゃんからすみれさんへの想いを聞くことになる。どうやらマモちゃんはすみれさんに一途に想いを寄せており、すみれさんはそんなマモちゃんを相手にしていないようだった。
この女、ひょっとして大嫌いかもしれないのに、なんか嫌いになれないのはなんでだろう
マモちゃんの恋とは反対に、出ることすみれさんは仲を深めていった。すみれさん本人からもマモちゃんへの気持ちを聞くが、やはりすみれさんはマモちゃんに興味がないようだった。
しかし、それでも一心にすみれさんを想うマモちゃんは、すみれさんが希望した海への旅行を計画する。そして、すみれさんが希望したテルコも連れて。
あといくらでも頑張れるって思ってんのに、どうやら何かがダウンしはじめる
テルコとまもちゃんとすみれさんの3人は海に出かけた。3人の気まずさを振り払うように酒を飲んで過ごした。
帰ってきてから体調を崩したテルコの元にマモちゃんからの電話が入った。大事な話があるからどうしても話したいと言うマモちゃんのために会いに行くと、マモちゃんは言いにくそうに、「自分の恋にテルコを付き合わせるのは悪いから、もう会うのをやめよう」と告げた。呆然とするテルコだったが、なんとか力を振り絞って強がり、マモちゃんへの好意を隠すことで、今後も会う予定を取り付けた。
まとめ・感想
テルコとまもちゃんの恋の行方を、期待を持って追っていた筆者でしたが、2人の恋は最後まで実らず、そこがまた現実味があるように感じました。
もどかしく、いじらしい恋にそれぞれの人間性を感じ、自分もその場にいるかのように感じてしまう作品です。
この作品を基とした映画「愛がなんだ」も是非見てみてください。原作を読んでから観るとより楽しめるかと思います。
お付き合いありがとうございました。