料理にまつわる全14話の短編小説集です。
『対岸の彼女』や『八日目の蝉』等の作品も手掛ける、角田光代さんの作品です。
1話づつ完結するため、移動時間の読書や、小説に抵抗がある方にもおすすめです。
どの話も美味しそうな料理が登場し、お腹が空いてしまうこと間違いなしです。
最後には、写真付きレシピも付いているので、是非お家で、作品中の料理を再現してみてください。
Contents
『彼女のこんだて帖』作品情報
題名 | 彼女のこんだて帖 |
---|---|
著者 | 角田光代(かくたみつよ) |
出版社 | 株式会社 講談社 |
発行日 | 2011年9月15日 |
ページ数 | 220頁 |
作者情報
- 角田光代
作家。『対岸の彼女』や、『八日目の蝉』、『紙の月』等、数多くの有名作品を手がけています。中でも、『紙の月』は、女優の宮沢りえさん主演で映画化され、話題を呼びました。また、作家としてだけでなく、翻訳家としても活躍されています。
あらすじ(ネタバレなし)
4年間付き合った彼氏と別れた協子は、今度の日曜日の夕食を考える。毎週週末は、彼氏と過ごしていたから、4年ぶりの一人で過ごす週末だ。せっかくの週末を悲しみに浸って過ごすのは嫌だ。そう考えた協子は、とっておきの料理を作ろうと考える。
各話の物語の主人公たちは、誰もが遭遇しそうな小さな悩み事を抱えている。その悩み事を料理を軸に解決し、新たな道を歩んで行く。毎日の生活に疲れている人にこそ、読んでほしい心温まる物語。
書き出し紹介
日曜の夜は肉だろう。駅で康平の背中を見送りながら、立花協子はむやみにそうくりかえしていた。
1話目は、4年間付き合った彼氏と別れた立花協子の物語です。書き出しから、美味しい料理が登場する予感を感じます。
ストーリー(ネタバレあり)
以下、ネタバレがあります。ご注意ください。
泣きたい夜はラム
4年間付き合った彼氏の康平と別れた立花協子は、4年ぶりに、一人きりの週末を過ごすことになった。せっかくの週末なのに、悲しみに暮れて過ごすのはもったいない。とっておきの夕食を作ろうと決意する。
そんな協子が、とっておきのディナーのメインに選んだのは、羊肉だった。自らが選び抜いた最上級の食材を用い、メインの羊肉のステーキに合うフルコースのディナーを作る。自分で作ったとっておきの料理を口にしていると、「失恋で失ったものは何もない。この経験は、私の栄養となりエネルギーになるのだ。」と気づき、段々と失恋の悲しみから立ち直っていくのだった。
恋のさなかの中華ちまき
恋愛に理想を抱きすぎている榎本景は、7か月以上交際したことがない。最近、今の彼氏の陽司にも、理想とのギャップを感じ始めている。こんな景のことを、同僚の協子は「ドラマチック症候群」と呼んで、呆れている。
景が姉の家に立ち寄ると、結婚3年になる夫のために、夫の好物の中華ちまきを作っていた。景も分けてもらって食べてみると、とても美味しく、彼氏の陽司にも食べさせてあげたいと思う。衿にレシピを聞いて、下ごしらえをしていると、いつのまにか陽司との別れを考えていたことなどすっかり忘れてしまった。
ストライキ中のミートボールシチュウ
榎本景の姉、工藤衿は、娘の春香を連れて、いつも通りの買い物に出かけた。いつもの道に、新しいブティックが出来ていた。ふとブティックを覗くと、鏡に映った自分の姿が、「ザ・主婦」というようなつまらない恰好に思えた。
そう気づいてしまうと、毎日同じことばかり繰り返している、自分の生活が突然嫌になった。そして夫に「今日から家事をすべて放棄します。」とストライキの連絡をした。
夫は、レジ袋を片手に帰ってくると、ミートボール入りのシチューをささっと作った。口に運んでみると思わず「おいしい!」と声が出た。夫に2週間に1回は夕食を作るよう約束させるとふわっと心が明るくなるのを感じた。
かぼちゃのなかの金色の時間
ブティックの女主人久喜桃子は、店に来店する主婦を見て心を痛めた。というのも、桃子は息子の晶が幼いころに離婚し、女手一つでなんとか育ててきたため、忙しく、息子が幼いころなかなか一緒に過ごせなかったのだ。そのことを桃子は強く悔いていた。
そんなある日、晶の彼女を名乗る女から、晶の大好物「かぼちゃのお宝料理」の作り方を教えてほしいと電話があった。それを聞いて、晶は自分の作った料理を覚えていてくれたことを知り、後悔ばかりだった心がだんだんとほぐれるのを感じた。
漬けもの名鑑
晶の彼女である円山知香子は、晶から結婚を申し込まれた。しかし、待ち望んでいたはずのプロポーズを素直に喜ぶことが出来ずにいた。なぜなら、晶は容貌から料理の腕まですべてが完璧すぎて、一緒にいると、自分の劣等感をひどく感じてしまうのだ。
そんなある日、知香子の家で晶と過ごしていると、実家の母から荷物が届いた。中身は、ださい手作りの漬物だったが、晶は
妙に喜び、土鍋でご飯を炊いて漬物を食べようと提案する。美味しそうに母の漬物を頬張る晶を見ていると、知香子は、自分の劣等感が少し薄れるのを感じた。
まとめ・感想
この物語は、どの話も、一般的なハッピーエンドの物語とは異なり、主人公が抱える問題を直接的に解決するわけではありません。
しかし、料理を通し、主人公の考え方を少し変えることで、自分のことを受け入れられるようになり、毎日の生活が豊かに感じられるようになっていきます。
派手な展開はありませんが、読んでいる自分まで、なんだか気持ちが穏やかになる、心温まるお話です。
各話の主人公が何らかの形で、関係しているのもこの物語の見どころです。
是非、そちらにも注目して、読み進めてみてください。
お付き合いいただきありがとうございました。