文芸・現代

『スペードの3』のあらすじと感想|ネタバレあり

学生時代には一人はいたであろう学級委員体質の主人公の物語です。朝井リョウさんらしい緻密な描写で、登場人物らが、まるで実在する人物かのように感じられます。

『スペードの3』の作品情報

題名『スペードの3』
著者朝井リョウ
発行所株式会社講談社
発行日2017年4月14日
ページ数344頁

朝井リョウ・作者情報

1989(平成元)年、岐阜県生れ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、2013年『何者』で直木賞、 2014年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。ほかの著書に『もういちど生まれる』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『死にがいを求めて生きているの』などがある。
https://www.shinchosha.co.jp/writer/4436/

あらすじ(ネタバレなし)

小学校の頃から、人をまとめ、しきることが大好きだった美知代は、ミュージカル女優香北つかさのファンクラブ「ファミリア」でもリーダーとしてつとめ、ファンクラブを取り仕切ることで優越感に浸っていた。

しかし、美知代の天下であった「ファミリア」に新メンバーとして小学校の同級生であった「アキ」が入会すると、美知代の天下が段々と揺らぎ始める。

登場人物紹介

  • 美知代(みちよ):学級委員体質で、人をまとめ、仕切ることが大好き。現在は香北つかさのファンクラブ「ファミリア」を仕切っている。
  • 愛季(あき):美知代の小学校に転校してきた女の子。顔も可愛く、性格も良かったためすぐに人気が出た。
  • 秋元むつみ(あきもとむつみ):美知代や愛季の小学校時代のクラスメイト。うねうねした前髪と陰気な性格で、気持ち悪がられていた。

書き出し紹介

ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。

ストーリー(ネタバレあり)

この先、ネタバレがあります。ご注意ください。ネタバレ部分は赤字で表記します。

美知代は、「香北つかさ」と呼ばれる日本のミュージカル女優の大ファンで、そのファンクラブである「ファミリア」のメンバーだった。「ファミリア」の中でも美知代は、中心的存在で、「ファミリア」をまとめる「家」のリーダーを務めていた。公演等で「ファミリア」が集まる際に、「家」としての権力を発揮し、みんなを取りまとめるのが美知代にとっては快感だった。

しかし、そんな美知代の立場に暗雲が立ち込める出来事が起こった。「アキ」と呼ばれる女性が新しく「ファミリア」に加わったのだった。アキは、誰もが気づくほどの美貌で、少しつかさ様にも似ていた。そして、公演後直接つかさ様に話しかけられていたこともあり、「ファミリア」のみんなからも一目置かれる存在となっていた。さらに、美知代とアキは小学校の同級生だったのだ。

小学生の頃から、美知代は学級委員等をつとめ、みんなをまとめることが好きだった。そんな美知代には取り巻きもおり、居心地良く過ごしていたが、ある日転校生である尾上愛季の登場により、美知代の基盤は揺らいでいった。愛季は見た目もクラスで1番可愛く、性格もとても良かった。段々とみんなの注目が愛季に移っていってしまうことを感じた美知代は、うねうねとした前髪と内気な性格で気持ち悪がられていた秋元むつみを目の敵にし、自らの立場を保とうとしていた。そんな美知代を尻目に、愛季は修学旅行で美知代が好きだった男の子に告白され、付き合ってしまった。

中学になると、美知代にいじめられていたむつみは別の中学に進学し、得意だった絵を活かして友達もできた。友達に誘われ、演劇部にも入り、舞台演出を担当するようになった。呼び名も小学校の頃とは変え、「秋元」の「アキ」と呼んでもらった。この呼び名には小学校の頃可愛くみんなの注目の的だった愛季に憧れる気持ちもあった。「アキ」という呼び名も定着し、順調に中学校生活を送っていたむつみだったが、演劇部の大会で、他の中学校に進学した愛季と久しぶりに会ってしまい、可愛い愛季と自分との違いに落ち込み、最もコンプレックスであった髪の毛を丸刈りにしてしまったのだった。

「ファミリア」に新しく入会した「アキ」は、小学校の頃美知代がいじめていたむつみだったのだ。むつみは中学の頃髪を丸刈りにすると、髪質が変わり、髪の毛に隠れていた綺麗な顔立ちが明らかとなったのだった。「アキ」は、大人になり、「ファミリア」でもリーダーをやり、みんなをまとめようとする美知代に飽き飽きしていた。そして、美知代に「美千代ちゃんは、この世界で、また学級委員になったつもりでいるの?」と声をかける。強がる美知代だったが、「ファミリア」のメンバーたちも段々と美知代から離れていき、美知代は天下を失ってしまうのだった。

まとめ・感想

誰もが1度は出会ったことのあるであろう学級委員体質の女の子のお話です。そのタイプの子は、集団をまとめ、導いてくれる一方で、集団を仕切ることに優越感を抱いている節があり、好き嫌いが分かれてしまうのが特徴だと思います。今回の作品は、学級委員体質に対する「嫌い」の側面にフォーカスした作品です。

現在と小学校時代の描写が、交互に入り、主人公らの現在に、小学校時代の思い出が大きく影響していることが分かります。初め、新しく「ファミリア」に入会したのは、愛季の方だと思っていましたが、実は秋元むつみの方だったという展開に驚かされました。ずっと虐げられてきたむつみが、時を経て自分をいじめていた相手に復讐をするという考えさせられる内容になっています。

なかなか自分の外見に自信がないという方や、いつも人に利用されてしまうといった悩みを抱えている方には是非読んで欲しい作品です。一度自分と向き合い、新たな未来を見出すことが出来るかもしれません。

お付き合いありがとうございました。

ABOUT ME
いけだ
読書家。現役女子大生。物心ついた頃から、本を読んで育つ。 本の読みすぎから、小学生時点で漢字の読みだけは高校生レベルを誇った。 活字は基本的に何でも読むが、中でも小説に目がない。本選びは、タイトルと書き出しを見て、直感的に行う。 無計画に書店をうろつき、本を眺めるのが至福の時。最近、小説をまとめ買いできるようになって、大人を感じている。
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