『パッとしない子』の作品情報
題名 | 『パッとしない子』 |
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著者 | 辻村深月(つじむらみづき) |
発行所 | Amazon Publishing |
発行日 | 2017年7月14日 |
辻村深月・作者情報
小説家。『ツナグ』や『鍵のない夢を見る』等の作品を執筆する。『ツナグ』は、映画化もされており、俳優の松坂桃李さん主演で、話題を呼んだ。
映画の脚本も手掛けており、映画『ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本を担当している。
あらすじ(ネタバレなし)
大人気アイドルグループの一員、タスクくんは知らない人はいないほど有名だ。そんなタスクくんが、テレビの番組の企画で、母校であった小学校を訪れることになった。
タスクの出身校である小学校に赴任している美穂はタスクが小学生だった頃タスクを教えたことがある。昔はパッとしない子だったタスクがどれほど変わったのか、会うことができるのを楽しみにしていた。
番組当日、タスクは美穂を見ると懐かしがり、番組外で、少しだけ思い出話をする時間を取ってもらうことができた。そこで話す内容は思いがけないものだった。
登場人物紹介
- 高輪佑(たかなわたすく):人気アイドルグループ「銘ze」のメンバー。美穂の元教え子。
- 松尾美穂(まつおみほ):小学校の美術教師。佑に、図工を教えていたことがある。
書き出し紹介
「ねえ、教頭先生に聞いたんですけど、松尾先生って高輪佑くんの担任だったって本当ですか?」放課後の職員室で、事務員の前野に声をかけられた。松尾美穂はやりかけのテストの採点から顔を上げる。あ、またその話か、と思いながら、「違うよ」と答える。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。
人気アイドルグループの一員、高輪佑は、昔美穂の教え子だった。担任ではなかったが、図工の先生として、指導をしたことはあったし、タスクの弟の担任もしていた。
今でこそ大人気のタスクだったが、当時の美穂からすると、特に目立つ子ではなく、パッとしない子だった。そんなタスクが光る才能を見せたことが1度ある。運動会の入場門を作るとき、普段は主張の弱いタスクがどうしても黒に塗りたいと言い出したのだった。他の先生には批判されたというその案だったが、美穂はタスクのことを信じ、受け入れた。その結果、入場門はこれまでにないくらい良いものが出来上がったのだった。この頃から、今の才能が開花し始めたのかも知れないと美穂は思う。
そんなタスクが、母校である小学校を、番組の企画で訪れるという。美穂はしばらく他校に赴任してから、またタスクの通っていた小学校に戻ってきていた。タスクと会って話ができることを、美穂は楽しみにしていた。
番組当日、美穂を見かけたタスクはすぐに気づき、声をかけてきた。そして、美穂と当時の思い出話をしたいというタスクの強い希望に、少しだけ2人で話す時間を取ってもらえる事になった。
芸能人を前に、緊張する美穂だったが、タスクを前に懐かしさが込み上げてきていた。しかし、美穂と2人になったタスクの様子は今までの笑顔とは異なっていた。話をしていくと、タスクは美穂が、タスクのことを「パッとしない子だった」と触れ回っていることをよく思っていないようだった。しかもそれだけではなく、パッとしない子だった弟や自分のことをよく思っていなかっただろうというのだ。戸惑う美穂に対し、タスクは「もう二度とぼくのことを見ないでくれ」と畳み掛ける。確かに身に覚えがないわけではなかったが、あまりの嫌われ様に美穂は動転した。
なんとかタスクを送り出し、後から別の教師と話をしていると、タスクの弟である晴也はすでに亡くなっているとわかった。晴也を担任していたにもかかわらず、美穂はそれを知らず、タスクにも「晴也くんは元気?」などと聞いていたのだった。その瞬間美穂は全てを理解した。
タスクやタスクの一家は美穂のことを嫌い、我が物顔でタスクや晴也について語る美穂に、晴也の死を教えなかったのだ。
まとめ・感想
途中まで読み、明るい展開だと考えていた筆者は、想像もできなかった展開に驚かされました。タスクの変わり様に、筆者まで恐れを感じてしまいました。
自分と他人との認識の違いについて、考えさせられる一冊でした。
AmazonのKindleでのみ、閲覧できる作品で、ページ数も少なく読みやすい作品になっているので、移動時間や寝る前の読書にもおすすめです。
お付き合いありがとうございました。