シンガーであり作家でもある、さだまさしさんもおすすめする痛快小説です。
『老後の資金がありません』や『あなたの人生、片付けます』等、誰もが遭遇しうる問題をテーマにした作品を手がける、垣谷美雨(かきやみう)さんの作品です。
疎遠だった夫が亡くなった後、『妻』をやめ、自由に生きようともがく、1人の女性を描いています。
では、読み進めていきましょう。
『夫の墓には入りません』の作品情報
題名 | 夫の墓には入りません |
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著者 | 柿谷美雨(かきやみう) |
発行所 | 中央公論新社 |
発行日 | 2019年1月25日 |
ページ数 | 349頁 |
垣谷美雨の作者情報
小説家。『老後の資金がありません』や『嫁をやめる日』等の作品を手がける。
小説家になる前、ソフトウェアメーカーに勤務していたため、IT関連のテーマの小説も多い。
デビュー作の『竜巻ガール』は、ドラマ化もされ、話題を呼んだ。
あらすじ(ネタバレなし)
一つの家で暮らしながらも、仕事で忙しく、疎遠であった夫が急死した。
夫から解放され、久しぶりの自由を謳歌しようと考える夏葉子だったが、舅や姑は、夏葉子を一家の嫁として、繋ぎとめようとする。
プライベートが守られない、嫁としての生活に、夏葉子はうんざりしてしまう。
他にも、夏葉子に襲いかかる、様々な問題を振り切り、嫁をやめ、1人の女性として生きようと奮闘する物語。
登場人物紹介
高瀬夏葉子(たかせかよこ):物語の主人公。東京から、夫の故郷である長崎に嫁いできている。
高瀬堅太郎(たかせけんたろう):夏葉子の夫。脳溢血で急死した。
書き出し紹介
どうして悲しくないんだろう。
夫が死んだというのに、何の感情も湧いてこない。
夫が急死したという事実に直面しても、悲しむことのない夏葉子の描写から、物語は始める。
ストーリー(ネタバレあり)
この先、ネタバレがあります。ご注意ください。
1
結婚15周年になる夫が急死した。
死因は、脳溢血だった。
しかし、長年連れ添った夫が死んだというのに、夏葉子は悲しくない。
というのも、夫は仕事が忙しいと言って、全く家庭をかえりみない人だったのだ。
夫の死を現実的に考える夏葉子に反して、姑や舅は、夫の死にかなり落ち込んでいるようだった。
2
夏葉子は、夫を亡くしてから、旦那を亡くして、悲しみに暮れる女性として扱われることに、違和感を感じていた。
舅や姑は、夫が亡くなった後も、夏葉子に目をかけてくれ、家に呼ばれることも多かった。
ある日、姑から、夫の仏壇について相談を受けた。
特に希望のなかった夏葉子が、姑に任せることにすると、姑は、大きな仏壇をプレゼントしてくれた。
せっかく姑が買ってくれた仏壇だったが、お気に入りの我が家に、仏壇を置くと、夫の死後も、夫の一族に束縛されているような感覚を覚えてしまう。
夏葉子の気持ちは、暗くなっていった。
3
夫の遺骨が、家に置かれるようになってから、様々な人が、線香をあげることを理由に、夏葉子の家を訪れるようになった。
中でも、姑はよく訪れ、ひどい時には、夏葉子が留守の間に、合い鍵を使って家を訪れていることもあった。
そんな落ち着かない状況に、夏葉子は、うんざりしていた。
そんな中、夫の中学時代の同級生を名乗る女が、線香をあげに、現れた。
女の名前を、サオリといった。
夫との親密さを示すような女の態度に、夫に愛情のなかったはずの自分が、腹を立てていることに気づいた。
4
夫の遺品整理をしていると、夫の通帳を、初めて見つけた。
通帳に目を通していると、先日家を訪れた、サオリという女に、長年夫が送金していたことが分かった。
それを知った夏葉子は、夫がサオリと浮気していたことを、疑い始める。
5
夫の四十九日が執り行われた。
その際に、夫の真新しい墓を眺めると、墓にはなんと、夏葉子の名前までが彫ってあった。
それを見ると、自分は、夫が亡くなってからも、高瀬家の嫁として生きることを決められているようで、夏葉子は、愕然とした。
6
ある日、サオリが夏葉子の家を訪れた。
長年、サオリと堅太郎は付き合っていて、生活費を援助してもらっていたと伝えてきたのだった。
妻の気持ちを逆なでするような、サオリの態度に腹を立てた夏葉子は、サオリに強く言い返してしまう。
7
姑ら親戚に縛られることにうんざりした夏葉子は、年末年始は、東京の実家に帰ることにした。
姑達の話を父に相談すると、父は夏葉子のことを心配し、長崎を訪れ、一緒に姑に話をつけてくれることになった。
8
家に帰ってからも、姑達の夏葉子への束縛は、変わらなかった。
そんな頃、夏葉子は、母から、舅や姑との関係を切る、姻族関係終了届というものがあることを知る。
早速、翌日市役所で、姻族関係終了届を記入し、提出した。
ついに、形式上は、嫁をやめることが出来たのだった。
父が、ついに姑達と対面する日がやってきた。
頼りないと思っていた父だったが、姑や舅に対し、しっかりと夏葉子の気持ちを伝え、守ってくれた。
これで本当に、夏葉子の嫁としての生活が、終わったのだった。
9
ある日、夫の姉である弓子から、夫のことについて話したいとメールが届いた。
弓子の話は、思いもよらないものだった。
夏葉子が、夫の浮気相手だと思っていたサオリは、実際には、浮気相手ではなく、夫の弱みを握り、夫を恐喝して、お金を送ってもらっていたというのだった。
夫の潔白を知って安堵するとともに、縁を切った自分に、勇気をもって話をしてくれた弓子を見て、高瀬家の人を毛嫌いするのは、間違えているのではないかと気づく。
そして、無理のない範囲で、高瀬家と接していこうと決める。
10
ある日、夫の手帳をふと見ていると、自分との結婚記念日に、星の絵が5つ並んでいるのを見つけた。
5つ星の夫婦だったということだろうか。
夫から、少しでも思われていたというしるしを見つけ、夏葉子は嬉しくなった。
まとめ・感想
夫の死後も、高瀬家に縛られる夏葉子の窮屈さが、痛いほど伝わってきて、読んでいる私まで、夏葉子を応援してしまいました。
誰もが遭遇し得る問題を、テーマにしているため、物語の中に入り込んでしまうこと間違いなしの作品です。
嫁姑問題に悩んでいる人にも、是非読んでもらいたい1冊です。
お付き合いありがとうございました。