内容紹介
「見つめるナベは煮えない」という諺があります。
今か今かと煮えるのを心待ちにしながら見つめる鍋は、なかなか煮えないものです。
それが、他のことをしていればあっという間だったりします。
それは思考に関しても同じことが言えます。
ひとつの事柄に執着して同じことを考え続けていては、一向に解決に向かいません。
筆者は、思考には「寝させる(=忘れる)」ことが大切であると述べています。
考えることを一旦やめて、答えが向こうからやってくる時を待つのです。
「”もっと若い時に読んでいれば…” そう思わずにはいられませんでした。」という本の帯が印象的な本書。
刊行から30年以上経った今も変わらず愛され続ける、思考する人々のバイブルとなる1冊です。
題名 | 思考の整理学 |
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著者 | 外山滋比古 |
出版社 | 株式会社筑摩書房 |
発行日 | 1986年4月24日 |
ページ数 | 223ページ |
こんな人にオススメ
・ものを考えると頭がごちゃごちゃしてしまう人
・自分で考える癖をつけたい人
・アイデアを蓄えている人
著者紹介
外山滋比古
1923年生まれ。
東京文理科大学(現筑波大学)英文科卒業。
お茶の水女子大学名誉教授。エッセイスト。
専攻の英文学だけでなく、思考、読書論、日本語論などの分野でも活躍した。
著書に『老いの整理学』(扶桑社)、『異本論』(筑摩書房)、『ユーモアのレッスン』(中央公論新社)などがある。
『思考の整理学』要約
「考える」とは、どういうことなのでしょうか。
調べたことを自分が納得するようにまとめることではありません。
筆者は「考える」ことを、時間の整理作用に任せずに想念を思考化していく作業だとしています。
答えのない問題を自分の頭で考える方法を、本書を通して実践し身につけましょう。
・グライダー能力と飛行機能力
人間は、グライダー能力と飛行機能力を兼ね備えています。
グライダー能力とは、独力で知識を得るのではなく、誰かから教えてもらう能力です。
風に乗っている時は飛べますが、自力で飛ぶことはできません。
一方、飛行機能力とは自分で発見や発明をする能力を指します。
エンジンを搭載しているため、自力で飛ぶことができます。
学校では教科書や先生に引っ張られて勉強をするので、自分でテーマを決めて自学自習することはほとんどありません。
学校で養成されるのはグライダー人間なのです。
学校で”優秀”という評価を受けたグライダー人間は、飛行機能力がまるでなくても”翔べる”という評価を受けて社会に飛び立ちます。
優等生が必ずしも社会で成功すると限らないのはそのためです。
指導者がいて、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるけれども、新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠なのである。
飛び抜けて優秀なグライダー能力の持ち主が、コンピューターです。
自力飛行ができるようにならない限り、コンピューターに仕事を奪われてしまうのです。
・寝させる
自分でテーマを見つけるには、素材とヒントと時間が必要です。
文学研究を例にすると、まず作品を読み、その中で感心するところ、違和感を感じるところ、分からないところなどが素材となります。
ヒントはその作品の中にあるわけではありません。
たまたま読んだ週刊誌や他人との雑談など、思いがけないところにヒントは潜んでいます。
おもしろいテーマを得るにはこのヒントが秀逸でなければなりませんが、それがどこに転がっているか分からないため、苦労するのです。
素材とヒントが揃ったところで、すぐにテーマができるわけではありません。
寝させる必要があります。
「見つめるナベは煮えない」という諺があるように、あまり考え詰めてしまうと出るべき芽も出ません。
大きな問題であればあるほど、長い間寝かせておかないと解決に至らないのです。
せっかく見つけたテーマを”見つめたナベ”にしないためには、テーマをいくつか持つと良いでしょう。
人間は意志の力だけですべてをなしとげるのは難しい。無意識の作用に負う部分がときにはきわめて重要である。
思考を整理するにも、生み出すにも、寝させることほど大切なことはありません。
無意識の時間を使って考えを生み出すことに、もっと関心を持つべきなのです。
・思考の整理
これまで、教育では人間の頭を知識の倉庫だと考えてきました。
しかし、コンピューターの出現でその考えに疑問を抱き、人間の創造力が注目され始めました。
人間の頭脳に対し、知識を保管する倉庫ではなく、新しいことを生み出す工場としての役割が求められたのです。
倉庫の整理はあるものを順番に並べるものですが、工場の整理とは作業に邪魔なものを取り除くことです。
人間は自然と、睡眠によって頭の中を整理しています。
記憶すべきものと忘れていいものを区分けし、頭の作業スペースを広くしているのです。
情報過多の時代に生きている我々は、今まで以上に忘れる努力が求められています。
・効果的に忘れる3つの方法
忘れようと思えば思うほど、早く忘れてしまいたいことほど、頭にこびりついてしまうものです。
不要なものを忘れ、頭の中をスッキリと保つのに効果的な方法を3つご紹介します。
- 場所を変え、軽く飲食する
場所を変えると気分も変わります。何かを口にすることでまた気持ちも変わり、これまでのことを棚に上げて新しい頭で考えられるようになります。 - 他のことをする
別種の活動であれば、休憩しなくてもリフレッシュすることができます。学校の時間割のように数学の次は社会など、異質なものを接近して行うことが忘れるには有効です。 - 汗を流す
気分がスッキリするのは、頭の中が掃除され、忘却が行われた証拠です。散歩程度の運動でも十分に忘却促進効果があります。
この方法で忘れることは、大して価値のない事柄です。
いかに些細なことでも、興味、関心のあることは決して忘れたりしない。忘れるとは、この価値の区別、判断である。
・古典を作る
『ガリバー旅行記』は、18世紀当時は政治に対する厳しい風刺でした。
それが時間が経ち、風刺として読む人が減り、リアリズムの童話として新しい読み方がされるようになったのです。
作品が古典になるには、読者の忘却という風化作用をくぐり抜けなければなりません。
作者自身が狙って古典を作ることはできないのです。
これを自然の古典化と呼べば、人為的な古典化もあります。
自然の古典化には長い年月が必要ですが、人為的にその時間を短縮することができます。
忘却を促進する、忘れる努力をすることです。
いいと思った着想をノートに書き、しばらくして見返します。
すると、その時はいいと思ったものでも、後から見ればなぜこんなものを書いたのか分からない、というようなものが出てきます。
風化のふるいから落ちていったのです。
これを続けると、風化のふるいをパスするものが出てきます。
そうして変わらないものを見つけるのです。
このようにして古典化した興味や着想は、簡単に消えたりしません。
思考の整理には、忘却がもっとも有効である。
実践ポイント
ここでは浮かんだ考えを寝かせる方法をご紹介します。
アイデアを寝かせるには、忘れなければなりません。
かといって完全に忘れてしまえばガラクタとともに消えてしまいかねません。
完全に忘れないように忘れるには、ノートに書き留めておくことが有用です。
記録した安心感で忘れることができます。
記録する必要のあるものは、とりあえずとらえる必要のある事柄です。
ふと浮かんだものは消えやすく、一旦消えてしまうと思い出すことが難しいものです。
何か思いついたことがあれば、その場ですぐにメモするようにしましょう。
書き留めたことには通し番号をふっておくと後で探すときに役立ちます。
ある程度時間が経ってからこのノートを見返すと、寝させている間に息絶えているものもあれば、これは面白いというものもあります。
寝させることで育ったアイデアは、別のノートに移しておきましょう。
このノートはあまり安物のノートでない方が良いです。
少し良いノートにアイデアを移し、さらに寝かせておくことで考えが向こうからやってくるようになれば、その考えをまとめる時が来たということなのです。
感想・書評・学んだこと
私には大学生の頃から考え続けていることがあるのですが、なかなか解決せず、悶々としていたところにこの本に出会いました。
その当時、考え事は頭の中でするものだと思っていたので、ノートに書き寝かせておくという発想に驚きました。
また、大問題ほど長く寝かせる必要があるという言葉に救われました。
いつになっても解決しない問題に悶々としていた日々は、ナベをただただ見つめていた日々だったのかもしれません。
問題を解決しようと、闇雲に本を読んで断片的な知識のガラクタを積み上げていたのだと思います。
本に教えてもらう気持ちで読むのではなく、得たいものを明確にして自分の意思で掴みにいくような読書をしたいと思うようになりました。
この本には、解決に長い時間を要してもいいこと、思考には忘れることが大切であること、ヒントは思いがけないところに転がっていることなど、これからの私の思考人生に重要なことがたくさんありました。
せっかく考えるなら楽しく考えたい。
最初は小さなアイデアでも、自分の中で寝かせて育てて大きな花を咲かせたいですね。
最高の名言
思考の整理というのは、低次の思考を、抽象のハシゴを登って、メタ化していくことにほかならない。
抽象化を高めることで高度の思考となり、普遍的なものになるのです。