内容紹介
「天才」と聞くと、どのような人を思い浮かべますか?
生まれつき才能を持っている人?知能指数が高い人?感性が優れている人でしょうか?
マイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏のような天才を天才たらしめた要因は何なのか。
筆者は、ビル・ゲイツ氏の成功について重要だったことに、
・コンピューターがまだ一般的でない時代にコンピューターが使える環境にいたこと
・当時、彼は中学生でコンピューターに費やす時間が多く確保できたこと
・学校の母親会がコンピューターを学校に導入できるほどの財力を持っていたこと
・コンピューターを使える大学が家の近くにあったこと
などを挙げています。
同じ時代にゲイツ氏と同程度の能力を持った人は他にもいたと推測できますが、これだけの整った環境を手に入れていた人は多くありません。
私たちは、成功している多くの人について「生まれつき才能を持った『天才』であるから成功した」と思いがちです。
筆者はこの思い込みに疑問を感じ、才能以外の要因を探究しました。
本書は、天才個人の内的要因(知能、素質、努力など)ではなく外的要因(環境、時代、国など)に注目し、多様な具体例を元に天才を生む要因を導き出します。
天才たちがどのようにして成功を収めたのか、そのエッセンスを取り入れたい人におすすめの一冊です。
題名 | 天才!成功する人々の法則 |
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著者 | マルコム・グラッドウェル |
出版社 | 講談社 |
発行日 | 2009/05/12 |
ページ数 | 339ページ |
言語 | 日本語(原題:英語『Outliers: The Story of Success』) |
こんな人にオススメ
・常識を変えたい方
・成功の秘訣を知りたい方
・得意なことを伸ばしたい方
著者紹介
著者名 マルコム・グラッドウェル
1963年イギリス生まれ。
雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライター。
オーディオコンテンツ会社であるPushkin Industries の共同設立者。
TIME誌の「最も影響力のある100人」に選ばれる。
著書の『The Tipping Point』(邦題『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』SBクリエイティブ)、『Blink』(邦題『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』光文社)は世界中で大ベストセラーになっている。
『天才!成功する人々の法則』要約
多くの場合、私たちが成功者に対して知りたいと思うことは、その人がどういう人間であったかです。
自叙伝や伝記などの成功者についての本では、「成功した要因はその人のパーソナリティや素質、知性、努力の賜物である」と書かれていることが多いのもそのためです。
筆者は、「成功者」に対する「努力と個人的資質が全てを決める」という考え方を否定し、成功者が知らないうちに受けていた恩恵や手にしていた優位点を明らかにしていきます。
自分の属する文化と、先祖から受けついだ伝統が、想像もつかない方法で成功にパターンを方向づけている。言い換えれば、その成功者がどんな人間かと訊ねただけでは十分ではない。成功者たちの出自を訊ねてこそ、成功者とそうでない者の背後に潜む本当の理由が見えてくるのだ。
本書では数多くの具体例が用いられています。
天才が成功を収めることが出来た要因のうち、代表的なものをご紹介しましょう。
・マタイ効果
誰でも、持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる(マタイによる福音書25・29)
カナダの心理学者ロジャー・バーンズリーは、プロホッケー選手は1〜3月生まれが多く、その理由が学年の区切りが1月1日であるためだと気付きました。
アイスホッケーの人気が高いカナダでは、代表メンバーを9〜10歳で選び始めます。
この年齢の誕生日による体の発達の差は大きいため、同じ学年の中でも早く生まれた子どもたちは、体も大きく器用であると見なされがちです。
つまり、早く生まれて成長の時間を多く与えられた子どもたちの方がメンバーに選ばれやすく、より良い指導を受けられる機会を得られるのです。
最初は少し早く生まれたという優位点しか持っていなかった子どもたちが、熱心な指導と人並み以上の練習量のおかげで数年後には本当に優れた選手になります。
私たちは成功を個人の才能と深く結びつけて考えるあまり、成功者をトップに押しあげた好機の存在を見逃している。私たちのつくるルールが成功の邪魔をし、あまりにも早い段階で一部の人を失敗者とみなしてしまう。成功者を崇め、失敗者を見下す。そして何より、私たちは消極的になっている。成功者とそうでない者を決めるにあたり、私たち、つまり社会が非常に大きな影響を及ぼしているという事実を、みんな見落としているのだ。
・一万時間の法則
ある心理学者が行った調査では、一流の音楽学校に入る実力を持つ学生がトップランクに入るか入れないかは「熱心に努力するか」で分けられることを示唆していました。
生まれつきの天才はその中には見つからず、頂点に立つ人は他の人より圧倒的にたくさんの努力を重ねていたことがわかったのです。
「調査から浮かびあがるのは、世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、一万時間の練習が必要だということだ」
一万時間とは、膨大な時間です。
毎日3時間欠かさず練習したとしても9年かかります。
若いうちに自分の力だけで一万時間をクリアすることはほぼ不可能です。少なくとも両親の励ましや支えが必要であり、貧しい家庭では難しいことでしょう。
大抵の人が一万時間を達成するには、たくさん練習できるような特別なプロジェクトに恵まれた場合、並外れた好機に恵まれた場合に限ります。
トップになれる人は、一万時間を達成できるような環境に居合わせており、好機を手にした人なのです。
ビル・ゲイツ氏も多くの好機を手に入れ、若くして一万時間を達成した一人です。
先に挙げたゲイツ氏の成功の要因がどれほど重要なものだったか、お分かりいただけたことでしょう。
・文化的な遺産
1990年代後半、韓国の大韓航空は墜落事故や着陸失敗などの事故が多く、同時期のユナイテッド航空の17倍位以上の確率で機体を損失していました。
事故の中には偶然の出来事も含まれていたものの、短期間にいくつもの重大事故を起こした大韓航空には多くの監査が入り、さまざまな調査や分析がされました。
墜落事故は多くの場合、小さなトラブルと些細なエラーの蓄積によって招かれます。
乗務員の知識や飛行技術の問題ではなく、墜落の原因となるエラーは必ずチームワークとコミュニケーションに関係があるのです。
韓国がチームワークとコミュニケーションにおいて抱えていた文化的な遺産とは、礼を尽くす時、恥ずかしい時、権威を敬う時に発言の内容を和らげる「表現の緩和」です。
何かトラブルがあった際は、機長、副操縦士、管制官とで正しい情報を共有し、協力することで乗り越えなければなりません。
大韓航空の事故では、立場の低い副操縦士が機長や管制官に対し、自分の意見を明確に伝えられなかったことで些細なエラーが蓄積し事故に至っていました。
自分の意見や考えを明確に上司に主張できるかは、人々が生まれ育った文化の「権力格差の格付け」に影響されます。
副操縦士が非常事態に機長に命令や提案ができなかったのは、権威に対して深く不変の敬意を持っていたからなのです。
大韓航空はこの文化的な遺産に対して、英語力を鍛えることで乗り越えました。
韓国語ではなく英語で話し合うことで、パイロット達に代わりとなるアイデンティティを与え、自国のヒエラルキーから抜け出すためのきっかけを作ったのです。
通常、パイロットは自国の ”文化的な遺産” の重みに押しつけられた役割から抜け出せない。だからこそ、パイロットには操縦席に座ったとき、その役割から抜け出す何らかの ”好機” が必要であり、言語はその変容のカギとなる。英語を話すとき、厳密に定められた自国のヒエラルキーの階層、 ”形式張った尊敬” 、 ”形式張らない尊敬” 、 ”慇懃” 、 ”親しい” 、 ”親密” 、 ”率直” から解放される。そして、まったく別の遺産を持った文化と言語に参加できる。
・機会平等
筆者は本書を通して「全ての人に機会を与えよ」ということを主張しています。
天才だったから成功者になったのではありません。
自分の努力以外の部分で大きな恩恵を受けているのです。
日本でも女性の社会参画が遅れていると言われていますが、男女に与えられるチャンスが異なっていたり、性別による役割分担意識が残っているためだと考えられます。
文化的側面だけでなく貧困によっても与えられる機会が異なります。
各個人に与えられる機会は不平等であるのが現状です。
人間が成功するためにいかに環境や制度が重要なのか、どのように全ての人に機会を、可能性を提供することができるのか、本書が考えるきっかけになることでしょう。
実践ポイント
成功者がいかに好機に恵まれていたか、文化的遺産がどれほど自分に影響を与えているかお分かりいただけたでしょうか。
今まで自分がどんな好機を得てきたか、自分に影響を与えている文化的遺産が何なのか、ぜひ考えてみましょう。
自分の目標へ向かう道筋で何が悪影響で何が良い影響を与えるのか、自助努力以外の観点から捉える一助になるはずです。
また、自分が得た好機や生まれた環境を理解していれば、歳をとったときに「近頃の若者は覇気がない」、「自分たちも若い頃苦労したのだからそのうち若者も成長するだろう」といった言葉は出て来ないでしょう。
努力主義や自己責任論を振りかざす大人は、自身が得てきたものに気付いていません。
子どもの頃は小さな優位性でも、好機に恵まれて練習を積めば大きな結果になります。
これからの世代に平等に機会を与えられる大人になりたいですね。
感想・書評・学んだこと
この人は天才なんだろうな、そんな人に皆さんも出会ったことがあると思います。
天才は生まれながらにして天才で、自分に合ったものにいち早く出会ったから大きな成果を収められているのだと思っていました。
しかし、それだけでは天才は天才になり得ない。
本書を読んで、成功者における個人の才能ではない部分、好機の重要性をひしひしと感じました。
それと同時に、自分が今まで受けてきた好機に感謝するきっかけをくれました。
挫折だと思っていたことすらも好機になりうる、そう捉えられるようになりました。
子どもに多くの機会を与えてあげられる一番の存在は親です。
自分の子どもに対して成功を強く望んでいるわけではありませんが、親がさまざまな機会を与えることで、子どもがイキイキと生きていける手助けができたらいいなと、一児の母として思いました。
すべての人に平等に機会が与えられる社会の実現を祈っています。
最高の名言
成功者は歴史と社会、好機と遺産の産物である。その成功は、異例のものでも謎に満ちたものでもない。それらは複雑に編み込まれた、優位性と彼らが受け継いだ遺産から生まれる。しかもその一部は与えられる価値があり、一部は与えられて当然とはいえず、あるいは自ら勝ち取った分もあれば、単なる幸運で手に入れた分もある。だが、そのどれが欠けても成功者は成功者になり得なかった。つまるところ、アウトライアーは最初からアウトライアーだったわけではないのだ。
アウトライアーとは異端者のこと。
天才を天才たらしめるには複雑な要素の絡み合いが必要だったのです。